君はテキーラ!
君に、誘われたい。
◆
バラエティ番組の収録を終えたぼくは、ランラン、アイアイ、ミューちゃんを打ち上げに誘った。
4人揃っての仕事は久しぶりだったし、みんなそれぞれ多忙なアイドルだから、予定が合うってことは滅多にない。
これはチャンスだと声を掛けたところ、あーだこーだと文句を言いつつも、みんな付き合ってくれた。
うんうん、みんな良い子だよね!
個室のあるちょっとおしゃれな居酒屋にすぐに予約を入れて、お酒を飲みながら、積もる話をしていると時間もあっという間に過ぎてしまう。
4人いても、ぼくの話している量が圧倒的に多いとか、ランランは食べてばっかりだとか、アイアイは厳しい突っ込みしか入れていないとか、ミューちゃんは甘ーいカクテルの甘さが足りないと愚痴っているだけとか、ぼくたちのことをよく知らない人から見たら、これは本当に友達の集まりなのかって思われちゃいそうな雰囲気だ。
でも、これがいつものぼくらで、ぼくらにとって一番心地のいい状態なんだ。
問題なし!
楽しい時間はあっという間に終わりを告げて、明日の仕事に支障をきたす前に解散になった。
みんな同じ寮に住んでいるから一緒に帰ってもよいのだけど、ただでさえ一人でいても目立つ存在のぼくたちなのに、4人揃ってとなるとさらに大変なことになってしまう。
見つかって騒ぎになってしまうのも考えものだから、時間差でお店を出て、それぞれ家路に付くことになった。
最後は、もちろん今日の会の言い出しっぺで最年長であるぼくだ。
歩き始めると、座っているときは実感がなかったけど、結構酔っぱらっているんだなということが分かった。
そう言えば、こんなに飲んだのは久しぶりだなと思いつつ歩く。
ちょっと火照った体に、夜風が気持ちいい。
街を抜け、人通りが少なくなったところで、ぼくはポケットから携帯を取り出した。
メール、着信、どちらもなし。
そう告げている携帯のディスプレイを眺め、ぼくは考える。
ひとりになるとつい考えてしまうのは、彼女……七海春歌のことだ。
(まさか、まだ寮に帰っていないのかな?だいぶ夜も遅いけど……)
春歌は、同じシャイニング事務所に所属する作曲家で、ぼくのパートナーで、恋人だ。
新曲の打ち合わせを一緒にやる場合は別だけど、アイドルであるぼくと、仕事の時間が合うことは基本的にない。
だから、一日の始まりと終わりには必ず連絡を取り合うようにしている。
早朝ロケだったり、撮影の都合で夜遅くなってしまったりすることがぼくは多いから、春歌の方が先に連絡をくれる場合がほとんどだ。
もちろん、ぼくだって忙しいときでも隙間時間に返事をすることは忘れてはいない。
「うーーん。とりあえず、今から帰るとこだってメールをしようか……」
新規メール作成場面を呼び出して、文を少し打ち込んだところでぼくはリセットボタンを押した。
やっぱり、電話を掛けてみよう。
この時間帯なら打ち合わせをしていることもないだろうし、ぼくの把握している限り、締め切りの差し迫った仕事は彼女は今抱えていないはずだ。
メールの返信を待つやきもきした時間が、実を言うとぼくはあまり好きじゃない。
基本的に、せっかちなんだよね。
いつもならメールで済ませるんだけど、今日のぼくは、返信を待つだけの我慢すら出来そうにない。
それに、彼女の声を聞きたいという、純粋な欲求もあった。
どうにも、理性的じゃない。
これもきっとすべて、酔っ払ってるせいだ。
だから、許してね。
そんなことを考えながら、彼女の番号を呼び出すと発信をした。
電話を耳に押し当てると、呼び出し音が鳴っているのが聞こえる。
その呼び出し音に混じって、ものすごーーく近くで携帯電話の着信メロディが聞こえているような……。
『はい』
「あ、もしもし春歌ですかー。ぼくだよー……って、分かる?」
『ふふっ、分かりますよ。嶺二さんです』
「ピンポンピンポーーン。れいちゃんでーーす。今、お電話しても大丈夫ー?」
『はい、大丈夫です。でも……』
「ん?どうかした?まだ仕事中?」
『いえ、仕事は終わっているのですが、あの……。嶺二さんが、わたしの後ろにいらっしゃいます』
「へ?」
そう言われて前方を見ると、街灯の下、携帯電話を耳に当てて、ちょっと困ったように首を傾げている春歌がいた。
ぼくは、電話を切ると彼女のところに駆け寄った。
「嶺二さんから電話だと思ったら、すぐ後ろから声がするのでびっくりしちゃいました」
「ソーリー!なんかすごく近くで着メロが聞こえるなーって思ったんだけど、春歌だとは思わなかったな。いつもの春歌の着メロじゃなかったし」
「あ……それは……。嶺二さんからの場合、他の方とは違う着メロが鳴るように設定してあるんです」
なるほど、そういうことか。
当たり前のことながら、ぼくと一緒にいるときに、ぼくからの着信やメールで春歌の携帯が鳴ることはないから知らなかった。
そんな特別な設定をしてくれていることを初めて知って、素直にすごく嬉しい。
大好きな彼女が、そんなかわいいことをしてくれちゃっているんだよ?
「ふーん。なんで、ぼくだけ違う音にしちゃってるの?」
「え、それは……」
分かり切っている理由を、敢えて追究する。
そんなぼくに、春歌は言葉を詰まらせた。
みるみるうちに、彼女のほっぺたが真っ赤になるのが、街灯の淡い光の下でもはっきり分かる。
相変わらず初々しくてかわいらしい反応。
お付き合いを始めて、キスももう数え切れないくらいして、それ以上のことだって済ませちゃっているのに、春歌はいつだってかわいらしい反応を返してくれる。
だから、ついつい聞いてしまうんだ。
「嶺二さんは、特別ですから」
「特別って何?」
「あ……あの、それは」
「ブーー。時間切れ」
言いよどむ彼女の頭を、やさしくポンポンと二度叩いた。
このまま追究すれば、照れ屋だけど素直な彼女は答えてくれるだろう。
でも、ここみたいに目立つ場所でそれは控えた方がいいだろう。
ぼくは、アイドルだからね。
それに、彼女は作曲家として事務所に所属しているとはいえ、普通の女の子なんだ。
マスコミの好奇の目からは、守るべき存在。
酔っぱらいとは言っても、まだそれくらいの理性は残っている。
「今は言わなくていいよ。続きは、誰もいないところでじっくり教えてちょ」
彼女に聞こえるくらいの大きさで囁くと、春歌ははっとした様子でこくこくと頷いた。
さて、春歌はこの言葉の含む意味を、どれくらい理解しているのだろうか。
彼女を家に送った後、すぐにでもじーーっくりと聞きたい気持ちはあるのだが、あいにく今夜のぼくは酔っぱらいだ。
何をしでかすか、自分でも分からない。
酒の勢いでという事態は避けたいところだし、春歌のことは本当に、本当に大切に思っているから……。
今夜は、彼女を部屋まで送り届けるだけにしておいた方がいいかなと、心のうちで考える。
しかし……。
みんなと飲んだのは楽しかったけど、どうしてぼくは、こんなに酔っぱらうまで飲んでしまったんだろう。
いや、酔っぱらいとはいえまだ理性は残っている分、マシなのだろうか。
「寮まで一緒に帰ろ」
「はい!」
春歌が微笑んで頷くと、ぼくらは肩を並べて歩き始めた。
ぼくも彼女も同じシャイニング事務所の寮に住んでいるから、こういうときに得だなと思う。
こうしてぼくらが一緒に歩いていても、普通に歩いている限りは不審な点がないからだ。
つまり、同じ寮に帰る仕事仲間を送っているだけのカムフラージュにもなる。
腕を組んだり、手をつないだりなんてことは出来ないけれど、一緒に家路を辿ることが出来るのは、幸せなことだと思う。
でもね……。
今、何時かを考えると、素直に喜べることじゃないな。
とにかく、注意すべきことはしないといけない。
「ねえ、春歌」
「はい?」
「今日は、ずいぶん遅くなったんだね」
「はい、そうですね。スタジオにこもって作業に夢中になっていたら、こんな時間になってしまっていました」
想定通りの答えに、ぼくはやれやれと思った。
ぼくのかわいい恋人は、音楽のこととなると、時間どころか寝食を忘れて没頭してしまう癖がある。
彼女のそんな一生懸命さは、長所でもあるんだけどね。
「あの……。怒ってますか?」
このあと何を言われるのか予想がついたのか、彼女はぼくの顔色を伺うように、じっと見つめてきた。
そんなかわいい顔をしても、ダメなものはダメ。
「ちょっとね。夜道の一人歩きは危ないよ。もし声を掛けてきたのが、ぼくじゃなくて狼さんだったらどうするつもりだったの?」
「う……そうですね……」
「どうしても切羽詰まった仕事を抱えていない限りは、気をつけなくちゃいけないよ。君は、女の子なんだから」
「はい」
いい返事だ。
でも、このやりとりは前にもやったことだったりする。
もう一押ししておかないと。
「そういえば、こうして注意するのは二度目だよね。どうしようかなー……」
「すみません。約束を破ってしまい……」
「じゃあ、こうしよう!今度守れなかったら、ぼくがお仕置きしちゃうことに決定」
「え……お仕置きですか?」
「そう、お仕置き。どんなお仕置きをしよっかなー……」
"お仕置き”という不穏な響きに、春歌は少なからず動揺した様子だった。
そんな彼女を追い詰めるかのように、ぼくは春歌の頭のてっぺんから足の先まで、舐めるように見つめる。
ぼくの視線を受けて、春歌は頬を染めつつ目を伏せると、後ずさりをした。
改めて思うけど、本当に素直な子だな。
相変わらず、かわいらしい反応。
そんな彼女を見ると、理性がぐらついて、どうしようもなくそそられる。
恋人の迂闊さを注意していたはずなのに、下心がむくむくとわき上がってくる。
『声を掛けてきたのが、ぼくじゃなくて狼さんだったらどうするの』だなんて、よく言ったものだ。
何をしでかすか分からないから、春歌を送ったらすぐに帰ろうと考えていたことも、忘れちゃいそう。
これじゃあ、ぼくが狼だ。
「今日の嶺二さん、ちょっといじわるです」
「そうだね。今夜は、酔っぱらいれいちゃんですからねー。お仕置きしちゃうぞー」
ちょっと調子に乗って、ガオーっと獲物を襲う狼さんのようなポーズを取ったら、春歌はますます焦ったようだ。
逃げるように、後ずさりをする。
しかし、それがいけなかった。
ちょっと……いや、かなりドジっ子属性のある春歌は、たまに何もないところで転んだりすることがある。
そんな彼女が焦って後ずさりしたんだから、そうなることは必然で……。
つまずくと同時に小さな悲鳴を上げて、春歌は後ろ向きに倒れていく。
まるで、スローモーションのように繰り広げられる光景に驚きつつ、ぼくはとにかく彼女の腕を取った。
「……っいたた……」
いつものぼくだったら、彼女を支えることができただろうけど、今夜はお酒が入っているせいか、足元がおぼつかなくて、支えきることができなかった。
二人揃って無惨に転んでしまったものの、何とか彼女をかばう形になれたことだけは、我ながら上出来であったと思う。
しかし、したたかに打った後頭部と背中が痛いことは確かで……。
これは、邪なことを考えたぼくに、天から与えられたお仕置きみたいだ。
ぼくが痛みで顔をしかめていると、彼女が泣きそうな顔で覗き込んできた。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ぼくは男だからね。それよりも、春歌は痛いところない?」
「はい。嶺二さんがかばってくださったお陰で……」
そう言いながら、春歌はぼくの手をぎゅっと握ってきた。
咄嗟の行動だろうけど、彼女からということが珍しくて、ぼくは内心ドキリとする。
「立ち上がれますか?とりあえず、わたしの部屋に来てください。ぶつけたところが腫れてきたりするといけませんから……。応急処置だけでもします」
「そんなに大袈裟にしなくても大丈夫だよ」
笑いながらぼくが立ち上がっても、春歌は泣きそうな顔のままだ。
首をぶんぶんと振ると、ぼくの手を握ったまま歩き始める。
どうやら、ぼくをこのまま部屋へ連れて行く気のようだ。
「わたしは、何てことを……。嶺二さんはアイドルなのに、怪我をさせてしまったら……」
明らかに悪いのは彼女をからかったぼくなのに、彼女は自分を責めてしまっている。
とにかく大丈夫だと安心させてあげないといけないけれど、場所が場所だしな……。
とにかく今は、おとなしく彼女の部屋に連れて行かれることにしておこう。
「あ!ごめんなさい」
はっとした様子で、彼女は握ったままになっていたぼくの手を離した。
宙に浮いたままになっている手で、そのまま彼女を絡め取りたい衝動にかられた。
けれど、それをごまかすように空に向けて手を伸ばすと、ぎゅっと拳を握った。
空からまんまるな月が、ぼくたちを見下ろしている。
ほんと、どこで誰が見ているのか分からないよね。
◆
「少し待っていてください。アイスノンを持ってきますね」
ぼくをソファに座らせると、春歌はキッチンへとぱたぱたと走っていった。
奥から、あわただしく冷蔵庫を開ける音が聞こえてくる。
その音を聞きながら、ぼくはどうしたものかと考えながら、背もたれに体を預けた。
彼女はとても心配しているが、幸いなことにぼくの怪我は本当に大したことがない。
それよりも、彼女の……恋人の部屋で二人きり。
このシチュエーションで、男として考えることなんて一つしかない。
このまま、朝まで一緒にいたい。
酔っぱらっているから部屋まで送るだけにしておこうなんていう決意は、脆くも崩れ去る。
男って、とことん都合のいい生き物だ。
「お待たせしました。冷たいですが、失礼しますね」
キッチンから戻ってきた春歌が、ぼくの隣に腰掛けると、後頭部にそっとアイスノンを当ててきた。
ヒヤッとした感触に、酔いが一気に吹っ飛んでいく感じがする。
しかしぼくは、すごく間近に彼女の顔があることに気がついた。
長いまつげの下の瞳が潤んでいて、ぼくのことを本当に心配しているんだって伝わってくる。
でも、不純なぼくはどうにもそんな彼女に色気を感じてしまう。
そして、渇きにも似た感情に支配されるんだ。
(キス、したいな……)
こんな渇いた気持ちでキスをしてしまったら、もう止めることなんて出来るはずがない。
渇きが満たされるまで、とことん彼女を求めてしまうだろう。
そして、ぼくが求めたのなら、きっと彼女は応えてくれるだろう。
でも、ぼくは躊躇する。
なけなしの理性で。
『わたしの前ではスイッチを切って、本当の嶺二さんでいてください、どんな嶺二さんでも怖がったりしません。約束します』
初めてぼくが春歌を抱いたときに、言われた台詞だ。
彼女は、嘘を吐かない。
その言葉通り、春歌はぼくを拒絶したことは、一度もない。
ぼくが彼女を”欲しい”って感じる気持ちをすべて受け入れて、受け止めてくれる。
そして、そんな彼女に甘えて、ぼくはだんだん遠慮をしなくなってきた。
それでも、ふと不安になるんだ。
それが、今のような状況。
君は、ぼくのことを”欲しい”と思ってくれている?
ぼくに、流されているだけじゃない?
”好きです”、”大丈夫です”って言葉だけじゃ、足りないんだ。
出来れば、君から誘われたい……。
恥ずかしがり屋の春歌には、かなりハードルが高いことだろうけど、ぼくはそう思っているんだ。
君にぼくを求めて欲しい。
「あ、あの……」
ぼくと目が合うと、春歌の頬がみるみるうちに赤く染まってきた。
目を瞬かせ、視線を泳がせている。
鈍い春歌でも気づくくらい、今のぼくの表情は男の欲望が剥き出しになっているんだろう。
「あの、嶺二さん。さっき転んだときに唇も噛んでしまったみたいですね。少し、血が滲んでいます……」
恥ずかしさを隠そうと、彼女は必死で言葉を紡いでいる。
「場所的にも、消毒をするわけにもいきませんし……。ちょっと待っていてください。ハンカチを濡らしてきますね」
居たたまれなくなったのか、慌てて立ち上がろうとする彼女の腕を捕らえる。
彼女の手にしていたアイスノンが、ぽすんと音を立てて床に落ちたけれど、そんなことは構わない。
彼女を自分の方へ引き寄せると、改めてソファへと腰掛けさせた。
「そんなの必要ないよ」
「でも……」
「こんなの、舐めておけば治るから」
「え?な、舐めるんですか?」
「うん。それで、十分だよ」
ぼくの答えを聞くと、彼女はまた視線を泳がせた。
そうしながらも、ぼくの言葉を噛み締めるかのように、もごもごと呟いている。
「そうですよね。唾液には、消毒作用があると言いますし……」
すると、春歌は何かを決心したかのように、ぼくの顔をじっと見つめてきた。
そして、おもむろにぼくの頬を両手で包み込むと、彼女は慎重に顔を寄せてくる。
そのままぼくの唇の端を春歌は舌でぺろりと舐めると、さっと顔を離していった。
「…………」
行動した後で恥ずかしくなってきたのか、彼女の顔はゆでだこのように真っ赤になった。
ええっと……。
舐めるって、自分で舐めるって意味だったんだけどな……。
まさか、そう解釈されるとは……。
想像の斜め上を行く彼女の行動に、ぼくが一本取られてしまった状態だ。
しかし、呆気にとられてたのは一瞬で、我に返ると同時に理性も躊躇もどこかへ吹っ飛んでいくのを感じた。
こんなにそそられる状況が、あるだろうか。
「春歌……。それ、ぼくが酔っぱらってなくても、完全にアウトだから」
「え、アウトってどうい……んっ!?」
純粋に疑問を口にしようとする彼女の唇を、ぼくは塞いだ。
重ねた唇が、ちりりと痛む。
彼女の言うとおり、切れているのだろう。
でも、そんなこと、今は構わない。
「嶺二さん、怪我は……」
「大丈夫。もう治ったよ」
「うそ……」
「うそじゃない」
これ以上、ぼくを押し留める台詞を言わせたくなくて、彼女の唇を割って舌を差し入れる。
くぐもった苦しそうな声を、彼女があげた。
それもまた、色っぽい。
春歌は、ぼくをその気にさせるのが、本当にうまい。
いつだってこんな風にぼくを誘って、その気にさせる。
でも、これは本当の意味で君から誘われているわけじゃないって分かっているよ。
ぼくが都合良く解釈してその気になっているだけであって、彼女がしているのは計算のない無意識の行動なのだから。
「特別って、何?」
キスの合間に唇をわずかに離し、ぼくは問いかける。
「え?」
乱れた息を吐きながら、彼女は潤んだ瞳でぼくを見つめる。
「さっき、誰もいないところでじっくり教えてって言ったよね。今、教えてよ」
彼女の腰を抱き込んで、逃げ場のないくらい体を密着させる。
「嶺二さんは、わたしの特別な人で……」
「うん。その、特別の意味」
「大切なパートナーで、大好きな恋人です」
「そうだね。知ってるよ」
彼女のいっぱいいっぱいな答えにくすりと笑うと、ぼくはもう一度唇を重ねた。
君に誘ってもらうには、どうすればいいのか分からない。
でも、君をその気にさせる方法なら、ぼくはたくさん知っている。
君の上顎を、舌でくすぐるように探ってみる。
それだけで、君の華奢な体は、かわいそうになるくらいびくびく震える。
でも、決していやがっているわけじゃないって分かっているから、やめてあげない。
それに、こうしていると息が乱れると同時に、君の体温が上がってくるのがよく分かる。
「れいじ……さ……」
蜂蜜のように甘くとろけた視線が、ぼんやりとぼくを捕らえる。
君がこうなっちゃうと、とろけているのが視線だけじゃないってことは経験上分かる。
だからぼくは、君をその気にさせる最後の手段で畳みかけるんだ。
彼女の耳に唇を寄せ、そっと囁きかける。
「君を、ぼくにちょうだい」
心も、体もすべて。
そして、柔らかな耳朶を、甘く噛む。
キスよりも、ずっと効果があるもの。
それは、ぼくの声。
君は、本当にぼくの声に弱い。
ぼくの歌声が好きって言った君の言葉から、分かったことだ。
君の体は、もうきっと蕩けきっているはず。
そこに、早く触れたい。
はやる気持ち。
それは春歌も同じなのか、ぼくにぎゅっとしがみつくと、微かに頷いた。
「はい……もらってください」
その返事を聞いて、ぼくは春歌をゆっくりとソファの上に押し倒した。
体重を掛けすぎないように気をつけながら覆いかぶさると、彼女の細い指先が震えながらぼくの頬に触れてきた。
その手をぎゅっと握ると、ぼくはもう一度キスをした。
熱いな。
こうして彼女の上に乗ってみると、彼女以上に、ぼくの体温も上がってきているのが分かる。
醒めかけていた酔いがぶり返してきたかのように、頭がくらくらする。
組み敷いた体の女の子特有の柔らかさは、ぼくの触覚を。
首筋から香る甘い匂いは、ぼくの嗅覚を。
舌を絡め探る粘膜は、ぼくの味覚を。
キスの合間にこぼれる悩ましい吐息の音は、ぼくの聴覚を。
そして、桃色に染まる肌は、ぼくの視覚を。
ぼくの五感すべてが、君の虜になる。
君は、テキーラみたい。
ほんの少し味わうだけで、あっという間にぼくを酩酊状態にしてしまう。
いや……テキーラよりも、たちが悪いかもしれない。
ぼくはいい歳の大人だから、酔っぱらうことが分かっていれば、お酒をコントロールすることができる。
けど、君はそうはいかない。
とにかく、君が欲しくてたまらなくなる。
「嶺二……さん……」
「どうしたの?春歌」
「好きです……」
ぼくをまっすぐに見つめて、彼女は呟く。
まだ足りない。
でも、今はこれで許してあげる。
いつか、君に誘われたい。
でも今の君は、ぼくの気持ちを受け止めるだけで、いっぱいいっぱいだよね。
だから、今はぼくと一緒に、この時間に酔ってほしい。
理性なんて、すべてかなぐり捨てて。
君を、ぼくにちょうだい。
ぼくを、君にあげる。
前作の続きっぽい感じの嶺春です。
最近、コンスタントに同じジャンルでお話を書くということが出来なくなっていたんですが、久しぶりに何作か書きたいCPに出会った感じです。
これだけじゃ、オチがつかなかったので蛇足な感じですが続きも書いてみました。
ちなみに、オチなのでかっこいい嶺ちゃんはいませーーん。
それでもOKなマイガールは続きへどうぞ。