【2】
嶺二さんが湯船から上がり、自分の背後に座るまでの間、わたしは出来る限り見ないように俯いていた。
自分の裸をばっちり見られてしまったけど、嶺二さんの裸をお返しのように見るのは、やっぱり恥ずかしい。
すると、浴室マットの上に、先ほど手渡したスポンジを置かれて、あれ?と思った。
しかし、その理由を尋ねる前に、嶺二さんはわたしの背中を洗い始めた。
たっぷりの泡を乗せた嶺二さんの大きな手が、わたしの背中を、やさしく撫でるように滑っていく。
スポンジを使わずに、素手でわたしの体を洗い始めたのだ。
ごつごつとした男の人の手で洗われているのに、スポンジを使って洗われるよりも、ずっとソフトな感触でくすぐったい。
「れいちゃんの美容講座のお時間でーす。ボディタオルやスポンジのように、化学繊維を使ったもので体をゴシゴシ洗うと、お肌を傷つけちゃうんだよ。しっかり汚れが落ちて綺麗になった気がするけど、それはNG!実は、そうすることによって摩擦でお肌を傷つけて、将来的にシミの原因になったりするので、やさしく、やさしーーく洗いましょう。これくらいやさしく洗っても、汚れは十分落ちまーす。この感じを、よく覚えておいてね。君のシミ一つ無いきれいな肌が、傷ついちゃうのは嫌だから」
「ひゃっ……わ、分かりました。でも、くすぐったいです」
くすぐったさから逃れたくて身じろぐと、そのたびに座っているバスチェががたがたと音を立てた。
「とりあえず、春歌は降りようか」
「ふぁ……はい……」
バスチェアを横に避けると、マットの上に座らされた。
ひゃりとした感触に、ふるりと震えが走った。
「冷たくない?」
「大丈夫です」
「うーーん。やっぱり冷たいか。それなら、ぼくの膝の上に乗る?その方が、洗いやすいし」
「でも……」
「気にしないの。あ、一応言っておくけど、びっくりしないでね」
嶺二さんは、力の入らないわたしの体を引き寄せると、軽々とあぐらをかいた膝の上に乗せた。
直接、肌と肌が触れ合う。
わたしの全身には石鹸がついているから、密着した部分がぬるぬるして不思議な感触だ。
重たくないか心配になってしまい、わたしは姿勢を正すために、もじもじと落ち着きなく動いた。
「うっ……あまり、動かないでいてくれた方が、ぼく的にはありがたいかな?」
わたしの動きに、嶺二さんは一瞬息を詰めると、苦笑しながらそんなことを言った。
さっきまで余裕たっぷりだった声音に、切迫感が含まれている。
「すみません。ちょっと滑ってしま……あ……」
わたしはあることに気が付いて、言葉を失った。
「びっくりしないでね……って言ってあったけど、やっぱりびっくりするよね」
「……」
わたしの腰に当たる、熱い塊。
静止したことにより、それが脈打つ人間の体の一部だとすぐに分かった。
これは、嶺二さんの……。
「好きな女の子の裸を見て、その上で触っていたら、こうなっちゃうよね。普通の男だったら」
「普通の……男……」
「うん。今のぼくは、普通の男。久しぶりに恋人に触れることができて、すごく興奮してる」
そう言いながら嶺二さんは、わたしのおなかに手を滑らせてきた。
たっぷりの泡で、今度はおなかをやさしく洗われる。
「あ、洗うのは背中だけって……」
か細い声で抗議をする間に、嶺二さんの手はわたしの胸の方へと移動してきた。
わたしの両胸を包み込むようにして、やわやわと揉まれる。
「やっぱり春歌のおっぱいはいいなー」
固く尖り始めた乳首を、嶺二さんの親指が時折掠め、その度にわたしの唇からはせつない声が漏れてしまう。
「特別サービス。すみずみまで、ぼくが洗ってあげる」
「あ……ん……嶺二さ……」
「かわいいね。ほら、このまま膝を立てて。閉じちゃダメだよ」
嶺二さんの促す言葉に、わたしの体は素直に従ってしまう。
背後から嶺二さんが腕を伸ばして、わたしの足先を洗い始めた。
爪の先、指の間、足の甲、足首、ふくらはぎ……そして、太もも。
丁寧に、大切に……嶺二さんは、わたしの体を洗ってくれる。
明るいバスルームの中、嶺二さんの手の動きが、はっきりと分かる。
太もものさらに上……。
淡い繁みのところまでたどり着くと、嶺二さんの手は、また膝の方へと下りていってしまう。
それが、何度も繰り返される。
徐々にもどかしい感覚が、体の奥からわき上がってきた。
ひょっとして、わたし……焦らされてる?
立ててと言われた膝から、力が抜けていってしまう。
思わず、太ももを擦り合わせた。
「春歌。まだ終わってないよ」
「は……はい。でも……」
「ちゃんときれいにしてあげるから、そんな風に泣きそうな声を上げないで。ほら、足を開いて……」
嶺二さんの手がゆっくりとわたしの足の間へ、移動していく。
「ひゃっ……あ……あっ!!」
嶺二さんの人差し指が、足の間の割れ目をゆっくりとなぞってきて、わたしは思わず高い声を上げた。
軽く触れられただけなのに、とても感じてしまっている自分が恥ずかしい。
「春歌も興奮してる?いつもより、声が大きい……」
「ふっあ……すみません……」
「いいよ。謝らなくても。ここはデリケートな場所だから、洗いすぎても良くないみたいだから。やさしくするね」
「っ……」
わたしは唇を引き結んで、声を抑えた。
でも、気持ちいい感覚をごまかすことはできなくて、体はがくがく震えてしまう。
そんなわたしを宥めるように、嶺二さんが首筋へとキスをしてきた。
「じゃあ、石鹸を流すよ」
「はい……」
シャワーのお湯で、体についた石鹸が流されていく。
洗い残しのないように、嶺二さんの手がわたしの肩やおなかを撫でた。
甘い責め苦の終わりに、わたしはほっと息をついた。
でも、油断してはいけなかった。
「あ……あ……やっ……!!!」
突如訪れた刺激に、わたしは悲鳴に近い声を上げた。
嶺二さんが、シャワーを足の間に当ててきたからだ。
石鹸を流すためだったのだろうけど、敏感になりきっているそこには、シャワーの水流でも刺激が強すぎた。
わたしは首を振りながら、嶺二さんの腕を掴んだ。
「ダメ……嶺二さん……」
「あ……きつかった?」
「はい……」
「やさしくするって言ったのに、ごめん」
嶺二さんは、シャワーをすぐに止めてくれた。
そして、たらいにたっぷりとお湯を取った。
「流すときも、やさしくしなくちゃいけないね」
そう言いながら手のひらにお湯を取ると、わたしの足の間に運んでいき、石鹸を流していく。
しかし、シャワーでなくても、今のわたしには十分刺激的だ。
嶺二さんの指がやさしく触れるたびに、気持ちが良くておかしくなりそう。
「うっ……くっ……」
「うーーん。困ったなー。いくら流しても春歌のここ、すごくヌルヌルする」
わざとらしさを含んだ声で、嶺二さんはそんなことを言い出した。
石鹸なんて、もうとっくに流れてしまっている。
分かりきっていて、わたしの熱をさらに煽るようなことをする。
溢れてくる蜜を、わざとぴちゃぴちゃと音を立ててかき回してきた。
「いじわる……しないでください……」
「ごめん。好きな子ほど、いじめたくなるって言うじゃない?」
「う……うぅ……」
わたしは唇を噛みしめて、目を閉じた。
「でも、ちょっといじめすぎちゃったかな?一回イっておく……?でも、唇が切れちゃうから、そんなに噛んじゃダーメ」
嶺二さんの指先が、わたしの唇をなぞる。
「あ……そうしないと、声、出ちゃ……っ」
「そうだね。バスルームの声って結構響くからね。隣の部屋まで聞こえてるかも」
「や……」
このフロアは、早乙女学園時代の同期のみんなが住んでいる。
もし、聞こえていたらなんて考えただけで、羞恥心で頭が真っ白になる。
わたしが首を振ると、嶺二さんはくすりと笑った。
「春歌。こっちを向いて」
「え……」
「声が出ないように、ぼくが唇を塞いでてあげる。だから、思いっきりイきなさい」
「でも……」
「いいから。このままじゃ、つらいでしょ?」
嶺二さんに促されて、わたしはゆっくりと振り返った。
わたしの唇に、嶺二さんの唇が重ねられる。
重なると同時に、荒々しく舌が入り込んできた。
塞ぐというよりも、呼吸を奪うかのようなキス。
嶺二さんにも実は余裕が無いことが、そのキスから伝わってきた。
舌が絡み合うたびに、熱が上がっていくような……。
意識が、高みへと連れて行かれる。
「うっ……うっ!!!あっ!!!」
ぷっくりと膨らんだ粒が、嶺二さんの親指でこねられる。
そうしながらも、人差し指がとろとろに蜜を溢れさせている膣を探るように差し入れられた。
外と内の感じる場所を器用に愛撫されて、わたしのおなかの奥から、むずむずするような感覚が全身へと広がっていく。
キスの音だか、弄られている音だか分からない音が、バスルームの中に響く。
「っ……!ふっ!!!!うっ…………!」
むず痒さがどんどん広がり、頭から突き抜けていくような感覚に襲われ、一気に弾ける。
全身が震えた後で、体の力が抜けていった。
息を荒げながら、ぐったりとした体をわたしは嶺二さんにもたれ掛けた。
「よくできました」
そんなわたしの唇に、嶺二さんはやさしくキスを落としてくれた。
嶺二さんが指を抜くと、とろりとした蜜が溢れて、腿を伝って行くのを感じた。
◆
「すっかり冷えちゃったね」
そう呟くと、嶺二さんはわたしの肩に、手ですくったお湯をかけてくれた。
ほんわりとしたバラの香りがする乳白色のお湯は、すごく滑らかな感触だ。
今、わたしは、嶺二さんに背後から抱きかかえられるような姿勢で、湯船に浸かっている。
「あの……大丈夫ですか?」
「ん?無理させちゃったのは、ぼくの方だよ?」
「いえ。でも、わたしだけあの……」
湯船の中とは言え、密着しているから分かる。
嶺二さんの熱は、まだ冷めていない。
当たらないように気をつけてくれてはいるものの、腰のあたりに固いものが時々触れてくる。
「あ……。気になるよね。そろそろ限界に近いかなー。なーんちって!でも、心配ご無用!ぼくは、大人ですから」
嶺二さんは冗談めかして言ってるけれど、つらくないはずがない。
「わたしは、どうしたらいいですか?気持ち良くしていただいたので……その……」
「ダメダメ!そんなかわいいこと言っちゃ!我慢できなくなっちゃうでしょ!?」
「へ……?いたっ!」
嶺二さんに、おでこをぴんと弾かれた。
きょとんとしたわたしの顔を見て、嶺二さんはふっと真面目な顔になった。
「だってさ。バスルームには、ゴムが置いてないでしょ?」
「はい」
「そこのところは、きちんとしないと!やっぱり大人のぼくが弁えないといけないことだし。傷ついてしまうのは、君の体だ」
「あ……」
嶺二さんが最後までしなかった理由が分かって、わたしは胸がじんとした。
本当に、わたしのことを大切にしてくれているんだ。
すると嶺二さんは、ウィンクを一回して微笑んだ。
「でもさっき、どうしたらいいですか?何て春歌に聞かれて、ちょっといけないことも一瞬考えちゃったんだけどね」
「え?どんなことですか?」
「今日のところは、秘密☆」
「へ?」
「次の時に教えてあげる」
「うっ……。恥ずかしいから、一緒にお風呂はもう勘弁して欲しいです」
「じゃあ、教えてあげなーーい」
「もう、ずるいです!」
嶺二さんは、抗議の声をあげるわたしの両肩を、ぽんぽんと叩いた。
「君の準備は、まだ出来ていないだろうから……」
「え?」
何の準備だろうと思って聞き返したかったのに、嶺二さんは遮るように言った。
「さて、春歌が先に上がって!」
「あの……」
「ぼくちん、この状態で出るとお見せしちゃいけないものを春歌に見せちゃうかなーって感じだから。タオルじゃ隠しきれないくらいになってるし」
「あ……!そ、そうですね」
改めて嶺二さんの今の状態を告げられて、わたしは頬が上気してきた。
「スケスケランジェリーを着て、寝室で待っててね」
「持っていませんから!」
「えええーーー。男のロマンなのにーー。スケスケ……」
「もう!嶺二さんなんか、知りません!」
わたしは真っ赤な顔のまま素早く湯船から上がると、脱衣所へ出てバスルームの扉を閉めた。
この熱さは、お風呂にのぼせたせいじゃない。
「スケスケランジェリーは冗談だけど、覚悟はしておいてよ。ご無沙汰な上に我慢してるから、ベッドへ行ったら、ぼくはきっと歯止めが利かなくなると思う」
バスルームの中から。真剣な声でそんなことを告げられた。
わたしは、短く「はい」と返事をするだけで精一杯。
スケスケランジェリー……。
今度の休みに、買いに行ってもいいかな?
そんなことを考えながら、わたしはふかふかのバスタオルに火照る顔を埋めた。
まだまだ、わたしたちの夜は終わらない。
いっぱい、いっぱいして欲しい。
春歌不足で枯れちゃいそうって言っていた嶺二さんを、満たせるまでに。
お風呂の嶺春なお話を書きたかったのですが、羞恥心が邪魔をして最後までやりきれず無念。
アニ店特急CDやシャッフルCDを聞いて、嶺ちゃんはうまい具合に、自分のペースに持っていっちゃう人だなと思いました。