【2】

静かな部屋の中、二人の息づかいだけが妙に響いた。
春歌はまず、蘭丸の首筋から鎖骨のあたりに、そっと触れる。
そして、喉仏から続くラインをゆっくりと辿っていく。
春歌よりも、太い男の人の首。
柔らかさはない……。

触れる手を、徐々に下へ向かわせた。
次に、蘭丸の胸に触れる。
春歌の胸とは違い、乳房のない男の人のそれ。
でも、しっかりと厚みはある。
そこの肉は筋肉なのか、触れると硬い。
硬いけど、ほどよく弾力もあって……。
筋肉の弾力を確かめるように、撫でてみると春歌の親指が、乳首に当たった。
そこは、すでに尖って硬くなっている。
春歌も、蘭丸に触れられるとそうなる。
気になって、親指ですりすりとそこを撫でてみると、蘭丸が息を詰めた。

「……っ!おまえ……うまいかどうか食ってみろって言ったのに、そこだけいじるんじゃねぇ」
「す……すみません……」

春歌は慌てて手を止めると、触れていた場所に唇を寄せた。
そして、蘭丸がいつも春歌に対してそうするように、軽く歯を立ててみる。
蘭丸の体が、ぴくりと震えた。
かすかに、蘭丸の息が上がってきているのを感じる。
そのまま軽く歯を立てたり舐めることを繰り返していると、肩に手をかけられ引き離された。

「……っ……だから、そこだけいじるんじゃねぇ」
「あの……痛かったですか?」
「痛くはねぇ……。でも、これ以上は……やめろ」

そう言いながら、蘭丸はふいと目を逸らした。
その反応に、思い当たるものがあった。
自分と……春歌と同じ反応だ。
蘭丸に乳首をいじられると、すごく体が熱くなって、むずむずして……。
痛くはないけれど、それはそれでつらいのだ。
でも、春歌が、いくらダメと言っても、蘭丸はやめてくれない。
そのときのことを思い出して、春歌は蘭丸をじっと見つめた。
春歌は、基本的に従順な少女だ。
相手の意に沿わないことは、決してしない。
でも、今の蘭丸の言う”やめろ”は……。

「な、なんだよ」

黙って見つめてくる春歌の方に、蘭丸はちらりと視線を向けた。

「蘭丸さんは、わたしに食ってみろとおっしゃいました。あ、あの……ですから、もう少しだけ……」

普段の春歌からは考えられない、大胆な願い。
羞恥心から、語尾は消え入りそうに、か細いものになってしまった。
蘭丸は、何かをこらえるように唇を噛むと、春歌の体を抱き寄せベッドの上に一緒に倒れ込んだ。

「蘭丸さん!?」

寝ころんだ蘭丸の上に、春歌が乗る体勢になった。
春歌が、蘭丸を組み敷いたような形になった。
いつもとは、逆の位置だ。
突然のことに、戸惑いから春歌は目を瞬かせる。
そんな春歌の顔を見つめ、蘭丸は不適な笑みを浮かべた。

「なかなか言うじゃねぇか。おまえの好きにしていいぜ。食えるもんなら、おれを食ってみろ」

蘭丸の言葉に、春歌はこくりと唾を飲んだ。
彼を……蘭丸を食べてみよう。
どうしたらいいのかだなんて、経験の浅い春歌には分からない。
だから、いつも蘭丸のしてくることを、してみるしかない。
彼のどこから、食べるべきか……。
いつも蘭丸が歯を立てる場所……。
思い出しながら、まずは二の腕に触れてみた。
ここはダメだ。
ひとめに晒される可能性のあるそこは、歯を立ててみて、痕が付いてしまったら困る。
胸……は先ほど味見をして、もういじるなと言われているからダメ。
では、太もも……?
春歌は、目線をそちらに落とした。
上半身の服は脱ぎ捨てているものの、下半身はタイトなレザーパンツを履いたままだ。
これをすべて脱がせて……と考えると、まだ羞恥心が邪魔をする。
考えた結果、春歌は蘭丸のわき腹に、今度は唇を寄せた。
そのまま、やんわりと歯を立ててみる。
やはり、硬い……。
どちらかと言えば、ぷにぷにしている春歌のそことは違い、硬い腹筋に覆われて引き締まっている。
その感触を確かめつつ、蘭丸のおへそのあたりに手のひらを当てた。
わき腹だけでなく、お腹もしっかりと引き締まっている。
しばらく春歌の動きに任せていた蘭丸だったが、おもむろに半身を起こす。
そして、ひとつため息をついた。

「こうされるのって、結構くすぐってぇんだな」

そう呟くと、春歌の頭を撫でてきた。

「お嫌ですか?」
「いや。悪くはねぇ」

その言葉を聞いて、春歌は嬉しくなった。
蘭丸の言う悪くはないは、褒め言葉なのだ。
つまり、春歌がこうして触れるのを、喜んでくれているということ。
いつも蘭丸に触れられて、愛されて、春歌は気持ちよさと同時に喜びを感じている。
そんな気持ちを、蘭丸にも味わって欲しい。
そして、それを可能にする時が今。
普段は羞恥心が先立つために抑え込まれている欲望が、徐々にわき上がってきた。
ひとつの決意を胸に、春歌は蘭丸のベルトのバックルに手を掛けた。
春歌は、セックスという行為自体、蘭丸とするのが初めてだ。
これまで、リードされる一方だったから、分からないことだらけ。
でも、春歌だってもっと蘭丸に触れたい、味わいたい。

「ちょっ……。おまえ……」

さらなる積極性を見せた春歌に、蘭丸は慌てている様子だ。

「あ、あの……こちらも…………」
「無理すんじゃねぇ」
「む、無理じゃないです。……わたしが……したいんです」

緊張のあまり震える指先でベルトを外し、黒いレザーパンツを脱がせる。
蘭丸は、言葉では止めるもののそうされるのが嫌ではないのか、腰を浮かせて脱がせやすいように、春歌を手伝ってくれた。
そして、蘭丸も下着一枚になった。
下着に覆われてはいるものの、突き破るんじゃないかと思わせるくらいの勢いで、蘭丸のそこは隆起している。
あと一枚脱がせてしまえば、蘭丸のすべてが春歌の眼前に晒される。
春歌の心臓は口から飛び出すんじゃないかと思われるくらいの勢いで、ドクドク言っている。
深呼吸をひとつして覚悟を決めると、春歌は蘭丸の下着も引き下ろした。

下着の拘束から解放されて、蘭丸の性器がふるりと勃ち上がった。
おへそに引っ付きそうなくらいの勢いだ。
初めて目にする男性器に、春歌は息を飲んだ。
東北出身なこともあり、男性のわりに色白できめ細かな肌を持つ蘭丸だけど、その部分だけは赤黒くて、どこかグロテスクなものを感じさせた。
まるで、別の生き物がそこに付いているかのように。
でも、それは紛れもなく蘭丸の体の一部で……。
いつも春歌の中をかき回し、狂わせるものなのだ。
春歌はそこにおそるおそる手を伸ばし、指先でそっと触れた。

「ひゃっ!?」

触れた瞬間、そこがまるで意志を持っているかのようにぴくりと動いて、驚きのあまり思わず声を上げてしまった。

「だから、無理すんなって……」

蘭丸がかすれた声で、窘めてきた。
春歌は、慌てて首を振る。

「だ、大丈夫です……」

そして、蘭丸の勃起した性器をそっと握ってみた。
こちらも、硬い……。
そして、熱く脈打っている。
これまで触れた部分とは、明らかな違いを感じるもの。
ここから、どうしたら……。
春歌は、表面の感触を確かめるように何度も撫でると、蘭丸の顔を見上げた。

「蘭丸さん……。あ、あの、こちらは、どのように味見をすればいいですか?」

もう少し、聞き方があったのかもしれない。
でも、春歌はそのように直接的に聞くことしかできなかった。

「ばっ!?そんなことしなくていい」
「蘭丸さんは、わたしの好きにしていいと仰いました。わたしは……したいんです……。でも、こちらはデリケートな場所ですし、それに……どうすれば蘭丸さんが気持ちよいのか分からなくて……。ですから、教えてください……」
「……ぐ……」

真剣に訴える春歌から、蘭丸はゆっくりと目を逸らした。
拒否されているのだろうかと思ったが、真っ赤に染まった彼の頬や耳がそうではないことを告げている。

「しゃぶってくれればいい……。ただし、歯は立てるんじゃねぇ」

しばらくの沈黙の後、蘭丸らしい短い指示が出された。

「はいっ」

春歌は、にっこりと笑って返事をすると、蘭丸の性器に唇を寄せた。
先端から、涙のような液体がにじみ出ている。
それを舌先で、ちろりと舐めてみた。
蘭丸が息を飲む音と同時に、しょっぱいような苦いような味が口の中に広がった。
お世辞にも、おいしいとは言えない味。
けれども、躊躇してはいられない。
春歌は、思い切って蘭丸のものを上からぱくりとくわえ込んだ。

「ん……ふっ……ぐ……」

春歌の口に収めきるには、大きすぎる蘭丸のもの。
苦しげな声が、漏れてしまう。
でも、何とか手を添えると、そのままゆっくりと舌を這わせていく。
竿の根本から、亀頭の段差部分や、先ほど舐めた先っちょ。
丁寧に舐めていくと、口の端から唾液がこぼれ出し、顎を伝った。
蘭丸の息が、徐々に上がってくるのを感じて、春歌はますます熱心に愛撫した。

「……はぁ……こうして見ると、おまえって、ネコみてぇだな……」

蘭丸がため息をつきながら、ぽつりと呟いた。
確かに、蘭丸の前に這いつくばって、お尻を上げたような姿勢で股間に顔を埋める姿は、ネコのように見えなくもない。
雌ネコだ。
春歌の背中から、お尻のラインを、蘭丸の手が慈しむように撫でてきた。
それがくすぐったくて、春歌は思わず息を飲んだ。

「うっ!!!あっ、待て……!!」

すると、蘭丸が切羽詰まった声を上げて、春歌は愛撫を中断した。

「すみません。大丈夫ですか?」
「いや、いい。おまえが不意打ちで吸うから、危なかっただけだ……」
「……危ない?」
「……おまえの口の中で、イっちまいそうになった……。あー、言わせるな。格好悪ぃ……」

達してしまいそうになったと言うことは、気持ちよかったということ。
そう理解した春歌は、もう一度、蘭丸の性器をくわえこむと、舐める動作に時々吸うことを加えた。
じゅぶじゅぶと、淫猥な音がそこから断続的に上がる。

「くっ……は、春歌……。待て。やばい……」

蘭丸が、制止してくる。
春歌は、必死になって続けた。
吸うたびに、蘭丸の性器がビクビク震えてさらに膨張する。
まさに、爆発寸前と言ったところだ。

「うっ……あ……。マジで、止めろ……」

しかし、蘭丸が達する前に、強引に中断させられてしまった。
顎を捉えられ、蘭丸に顔をのぞき込まれる。
いつもより、ギラギラと野性的な光を帯びた瞳が、春歌を見つめてきた。
怒らせてしまったのだろうか、春歌は無意識のうちに震えた。
すると、蘭丸の双眸が、すっと細められる。

「上出来だ。無茶しやがって……」

そう言うと、春歌の眦に滲んで溜まっていた涙を拭ってくれた。
春歌の小さな口で、サイズ的には大きい部類に入る蘭丸の性器を愛撫し続けるのは、なかなか大変なことだった。
そのため、生理的な涙が滲んでしまっていたようだ。

「もう少しでイっちまうところだった。だが、おれはおまえの中でイきてぇ」

蘭丸はそう言いながら、春歌をベッドの上に押し倒すと、膝を割った。
そして、春歌の足の間に、顔を埋める。
今度は、蘭丸の眼前に春歌のすべてが晒されようとしてた。
まだ下着を身につけたままの春歌の足の間を、蘭丸はじっと見つめた。
触れられていないのに、視線を受けて、熱いものがこみ上げてきた。

「おれはまだ今日一度も触っていねぇのに、パンツが透けるくらい濡れてんぞ」
「え……あ……」

かあっと一気に、頬が熱くなった。

「おれを食って、興奮してたのか?」

追い打ちをかけるようにそんなことを言われて、春歌はぎゅっと目を閉じた。
そして、観念してこくりと頷く。
こうなってしまっては、隠しても無駄だと思ったから、素直に答えた。

「……っくそ」

何に対して怒っているのか分からないけれど、蘭丸はそう呟くと、春歌の下着を抜き取った。
そして、露わになった花びらに、そのまま荒々しく舌を這わせる。
突然襲ってきた刺激に、春歌の体が跳ねた。

「んっ……あっ!!!蘭丸さ……汚いです……。あぁ!」
「汚くねぇ。うめぇ……」

蘭丸は、ぴちゃぴちゃと音を立てて、後から後から際限なく溢れてくる春歌の蜜を舐める。
ネコがミルクを飲んでいるような音が、春歌のあえぎ声と一緒に響く。
しかし、蜜を啜る蘭丸の目は、かわいらしいネコのそれではなく、肉食の獣そのもののような輝きを放つ。

「こんなに、トロトロに柔らかくなりやがって……。もう我慢できねぇ……」

蘭丸は、枕の下にあらかじめ忍ばせてあったコンドームを取り出すと、焦れた様子で用意をした。
そして、春歌のとろけきった部分に、慌ただしくあてがう。

「もっと丁寧にやってやりてぇんだが、もうおれが限界だ。いいか?」

こんなに余裕のない蘭丸を見るのは、初めてのこと。
けれども、春歌はそれを自覚すると同時にじわっと体の奥から蜜があふれ出すのを感じた。
自分も、早く蘭丸が欲しい……。
今はそれしか、考えられない。
春歌が、促すように頷くと、蘭丸はふっと笑った。

「サンキュ。行くぜ」

そして、一息に春歌を貫いた。
一瞬だけ襲い来る圧迫感に眉を潜めたものの、軽く達してしまい、春歌は蘭丸の腕をぎゅっと掴んだ。

「くっ……。相変わらず、きつく締めてくるな……。やべぇ……」

達してしまいそうになったのは、蘭丸も一緒のようだった。
しかし、こちらはどうにか射精感をやり過ごしたようだ。
春歌の中に入ったまま、しばらく目を閉じて呼吸を整えていた。
そして、落ち着いて来たところで目を開けると、にやりと不適な笑みを浮かべた。

「はっ。何度も締め付けて来やがって……。なんだかマジで、おれがおまえに食われてるみてぇだ。ぽやーっとしていて、食うようなタイプに見えねぇのにな」
「ら、らんまる……さん……」

春歌は、思わず腰を揺らめかせた。
繋がった状態が続いていて、蘭丸が動いてくれないから、もどかしさばかりが募っていくのだ。

「分かったよ。満足するまで食え」

蘭丸はそう言うと、繋がった状態で春歌の体を起こし、対面するような姿勢になった。

「あ……やっ!?やだ……」

いつもよりも奥深いところに蘭丸のものが当たり、春歌の体に、未知なる感覚が押し寄せる。
自分が自分でなくなってしまいそうで、このままバラバラになってしまいそうで、思わず首を振った。
しかし、容赦なく蘭丸は、屈強な腹筋を使い春歌を突き上げてきた。

「ひゃっ!……あっ……あぁ……!」

快楽に翻弄され、喘ぐしかない春歌の肩に、蘭丸が噛みついてくる。
春歌が蘭丸を食べているようだと、先ほど彼は言った。
けれども、この今の状態はどちらが相手を食べているのか分からない。

食って食われて、食われて食って。

本来は、捕食関係にない肉食獣同士が、食らい合うかのような激しいセックス。
春歌が意識を失うまで、そんな交わり合いが続いた。



ふたりは情事後の気だるさに身を委ね、ベッドに並んで横たわっていた。
線路を電車が走っていく警笛の音が、たまに聞こえてくる。
蘭丸が春歌に腕枕をする形になり、春歌はそうしてもらいながら彼の体に寄り添う。
心地よさに頬ずりをすると、蘭丸はくすぐったそうにして微かに笑った。
先ほどまでの荒々しさは嘘のように潜み、二人はまた、ネコのようにじゃれあった。

「……で、どうだったんだ?」

ふと思い出したかのように発せられた質問に、春歌はゆっくりと瞬きをした。

「はい?」
「なんつーか、その、おれを食ってみて分かったのか、つってるんだよ」

そう呟くと、蘭丸は照れているのを隠すように、春歌の髪をそっと撫でてきた。
そこで、彼が何を聞いているのかようやく理解できて、春歌は頬を染めた。

「言わなきゃダメですか?」
「当たり前だ」

どうやら、春歌が答える以外の選択肢はなさそうだ。
まだ互いの服を着ていない状態だったけれど、春歌はぎゅっと蘭丸の体に抱きついた。

「蘭丸さんは、柔らかくなかったです。胸も、お腹も、足も……あと、その、あの……えっと、全部……硬かったです。男の人なんだなって……」

答えながらも、先ほどまでの嵐のような出来事を思い出して、恥ずかしくなってくる。

「だろうな。これで分かっただろう?どう考えても、おれがうまそうって発想に行きつかねぇよな」

笑いながらそう言い放つ蘭丸の胸に、春歌はそっとキスをした。
それは、違うという意味を込めて。

「ライオンにとって、蘭丸さんがおいしいのかは結局分からないままです。でも、わたしはまた、蘭丸さんを食べたいと思いました。わたしが触れることによって、蘭丸さんが気持ちよくなってくださって、すごく嬉しかったので……」
「おまえ……」

蘭丸は、くっと喉を鳴らすと、春歌の体を抱き締めてきた。

「蘭丸さん?わたし、何かおかしなことを言いましたか?」
「違ぇよ……」
「それなら良いのですが……」

蘭丸の抱擁に身を委ねるように、さらに体を寄せて、春歌ははっと気が付いた。
やわらかい自分の太ももに当たる、春歌とは違う、硬い感触に……。
その正体が何だかすぐに分かり、春歌は慌てた。

「あの……蘭丸さん?」
「おまえが、かわいいこと言うからだ」
「へっ!?」

目をぱちくりさせていると、蘭丸がまた春歌を組み敷く形になった。
そして、いたずらを思いついた子どものような笑みを浮かべる。

「春歌。おかわりだ」

かわいいネコが、また肉食獣に早変わりした。
春歌の肌に唇を寄せると、うまそうに舌を這わせ始めた蘭丸の髪を、春歌はくすりと笑いながら撫でるのだった。
でも、やはり今回もどっちが食べる側かは分からない。
自分の中に、彼を欲しいと思う飢餓感が再び生まれてくるのを、春歌は確かに感じていたからだ。

AS蘭丸ルートの4章で、罰ゲームから帰ってきた蘭丸とのやり取りから妄想しました。