Sweet×Chocolate×Lover
2月14日。
バレンタインデー。
女の子なら、誰もが意識する特別な日。
春歌にとっても、今年は特別な日だ。
恋を知ってしまったから……。
「な・な・み・ちゃん!いらっしゃいませーー」
「きゃっ!え、あ……寿先輩?どうしましたか?」
社長の突発的な思いつきで、寿嶺二、黒崎蘭丸、美風藍、カミュのシャイニング事務所一押しのアイドル4人で、期間限定ユニットを組むことになり、そのイメージソングを急遽製作することになった。
そして、その作曲家として、寿嶺二のパートナーである七海春歌に白羽の矢が立った。
今日は、製作にあたっての打ち合わせが、事務所の会議室で行われることになっていた。
彼らはみんな人気アイドルなので、スケジュールの調整が大変で、打ち合わせも限られた数しか行うことができない。
とても大切な会議だ。
春歌は、パートナーである嶺二以外のアイドルとは接する機会が少ないので、緊張しながら部屋のドアを開けた。
しかし、ハイテンションな嶺二に、これ以上ないほどの歓迎を受けたのである。
「ありゃ。びっくりさせちゃってめんご!」
驚きで目をぱちくりさせる春歌に、お詫びの印とばかりに、嶺二はウィンクをした。
そんな嶺二の笑顔を目の当たりにして、春歌の頬はみるみるうちに紅潮した。
ただでさえすてきな嶺二なのに、とびきりの笑顔にウィンクというオプションまで添えられて、破壊力は抜群。
本人は、れいちゃんの必殺アイドルスマイルと称しているそれ。
手厳しい周囲からは、自称でしかないとの声もあるけれど、そんなことはない。
春歌の心拍数は、一瞬にして急上昇した。
「レイジ。ドッキリじゃないんだから、おどかしてる場合じゃないでしょ」
すでに席に着いている藍が、いつも通りの落ち着いた様子でたしなめてくる。
「だってだってー。今日は何の日だか、みんな知ってるでしょ?バ・レ・ン・タ・イ・ン!男の子ならみんな、かわいい女の子からチョコが、欲しいじゃない?欲しいよね!そして、ここにかわいい女の子が!!!そりゃあ、もう期待しちゃうよね?」
「あ、あの……」
春歌が状況に付いていけずにいると、藍の隣に座っていた蘭丸が舌打ちをした。
「嶺二。チョコレート乞食みてぇなことしてんじゃねぇよ。七海が困ってるだろうが。それにお前は、”男の子”って歳じゃねぇ。……で、もちろんチョコは用意してあるんだろ?」
「うわっ!!!ランランってば、さりげなく酷いことを言ってる上に、最終的に言ってることが矛盾してるんだけど!」
「うるせぇ。細かいことを気にするのは、ロックじゃねぇ」
嶺二と蘭丸のやり取りを見ていた藍が、すかさずつっこみを入れた。
「ふーーん。でも、ランマルのさっきの発言を分析すると、レイジだけでなく、ランマルもチョコレート乞食ということになるね」
「うるせぇ。お前は、さらに細かすぎんだよ」
「ボクが細かいんじゃないよ。キミたちの発言から導き出された結論なんだから」
騒々しいやりとりを見ている内に、春歌の胸の鼓動はどうにか落ち着いてきた。
思わず、クスクスと笑いがこぼれてしまう。
「大丈夫です。みなさんの分のチョコレートは、ちゃんと用意してきました。打ち合わせが終わってからお渡ししようかと思っていましたが、先に渡しておきますね」
「……チョコレート……だと?」
3人のやり取りを素知らぬ顔で静観していたカミュが、チョコレートという単語にすかさず反応する。
「カミュ先輩の分も、ご用意しました。あの……お口に合うかは分かりませんが……」
「愚民にしては、気が利くではないか。受け取ってやるから、ありがたく思え」
贈られる側にもかかわらず、いつも通りの不遜な態度でカミュは、チョコレートを受け取った。
チョコレートの箱は、カミュの瞳の色を思わせる、アリスブルーの美しい包装紙で包まれている。
それぞれのイメージに合わせて、ラッピングされたチョコレートを、春歌は次々に渡していく。
そして、最後に嶺二の分。
嶺二の手に箱を渡す瞬間、目が合った。
春歌の落ち着いたはずの鼓動が、途端に高鳴る。
目が合ったのは、とても一瞬のことだった。
けれど、春歌には伝わった。
嶺二が、とても真剣な表情をしていたことを。
さっきまでのハイテンションな言動をしていた人物とは思えない、対照的な表情。
春歌がそのまま固まっていると、嶺二はすぐにいつも通りの表情に戻った。
「やったね!七海ちゃんのチョコをゲーーット!ねぇねぇ。もちろん、ぼくが本命だよね?ね!」
「それは……」
高鳴る鼓動を持て余しながら、春歌は目を泳がせた。
嶺二は、いじわるだ。
内心、春歌はそう思った。
パートナーである嶺二とは、個人的な……つまり、恋人としての関係がすでにある。
しかし、それは周囲には秘密にしていること。
嶺二には、春歌の本命は誰であるか分かり切っているし、今の状況で答えられるはずも無いのに、わざわざ聞いてくるだなんて……。
「レイジ。残念ながら本命はいないよ。見たところ、ボクたちのもらったチョコレートはみんな同じものみたいだからね。ラッピングに多少の差はあるけれど、色の違いだけだし」
「ガ……ガーーーン。れいちゃん、ショーーック!!!」
ショックを受けた様子で打ちひしがれている嶺二を、カミュは鼻で笑った。
「本命とかよく分からぬが、このチョコレートはなかなか美味だ」
「……って!ミューちゃん、もう食べちゃったの?」
「無論」
見ると、さっさと食べ終えた空の箱が、カミュの前に置かれていた。
あまりの素早さに、一同はしばらく呆然とした。
しかし、春歌ははっとすると、微笑んだ。
「実は、甘いものがお好きなカミュ先輩には、皆さんよりも甘めのミルクチョコレートにしたんです。気に入ってもらえたようで、良かったです」
「そうか、俺は専用のものを選んだか。寿。どうやら俺のチョコレートは、その他大勢の愚民どもとは違うものらしい。うらやましいか」
得意げな表情を浮かべるカミュとは対照的に、嶺二はしょげかえった。
「ミ……ミューちゃんってば、調子に乗って……って、ランランはクーラーボックス持参なの!?しかも、中身はチョコレートだらけだし!」
「本命とか義理とか知らねぇが、いちいちそんなことを騒いでロックじゃねぇ。貰えるものは、貰っておけばいいだろうが」
「うーーーわーーー!ランランってば、サイテー。女の子の純情を踏みにじってない?大丈夫?」
蘭丸は、舌打ちをしつつ嶺二を睨んだ。
「チッ。今日はどこへ行っても、チョコを貰える日だろうが。スタッフから貰ったものばかりで、お前の言う女の子の純情とかは関係ねぇよ。人聞きの悪い。チョコレートは非常食だ。ほら。山登りする奴は必ず持って行くだろう?遭難してもこれを食べて、数日間は凌げる場合があるから、大切な食料だ」
「なるほどーー。ランランってば物知り!……ん?でも、ランランは山登りしないじゃん」
「さっきから、細かいことは気にすんなって言ってるだろうが。チョコレートは非常食だ。非常食」
「うぃーっす!了解でーす。さて、宴もたけなわではありますが、そろそろ打ち合わせを始めようか」
チョコレートを受け取ると同時に、大騒ぎになっていた会議室だったが、その騒ぎを止めたのは、意外にも嶺二だった。
しかし、彼は騒ぎ始めた張本人でもあるのだが。
「レイジにしては、まともなことを言うね。みんな、今日のこの時間がどれだけ貴重なものか分かっているよね?こうして無駄に過ごすことはとても非効率的だから、ボクがそろそろ止めようかと思っていたよ」
「ふっふっふーー。心配ご無用!ぼくちんは、空気の読める大人ですからね!」
「そもそも、一番うるさかったのはレイジなんだけど。チョコレートのひとつやふたつで大騒ぎして、理解に苦しむよ」
「ブーブー。そういうことは言わないの!はい、みんな着席!」
騒いではいたものの、ここに集まったメンバーは全員プロだ。
打ち合わせが始まると同時に、空気はぴしっと切り替わった。
◆
「ぼくはこれで上がりだから、七海ちゃんを送っていくねー」
「お先に失礼します」
打ち合わせを終えると、春歌と嶺二は連れだって会議室を後にした。
他のメンバーはそれぞれ用事があるようで、寮になっているマンションに戻るのは、二人だけだった。
連れだって歩きながら、春歌は嶺二の顔をこっそりと伺った。
仕事のときとは違う普段着に着替えて目立たなくはなっているものの、彼はやはりとても素敵な男性だ。
そして、その素敵な男性が自分の恋人で……。
でも、先ほどの会議室でのやり取りで誤解を生んでいないか、心配で仕方ない。
彼の反応を見る限り、やはり嶺二にとっても今日は特別な日のようだ。
春歌は思い切って、誘いをかけた。
それはなくても、元から誘うつもりではあった。
「あの……このあと、わたしの部屋に寄っていただけませんか?先輩が、よろしかったらですけど……」
「いいの?」
「……はい」
自分から誘ったくせに、恥ずかしくなってきて俯いてしまう。
「君から言い出すだなんて、ちょっとびっくりだなぁ」
隣を歩く嶺二は、そう言いながらも喜んでいる様子が伝わってくる。
「お部屋に、先輩に渡すチョコレートが用意してあるので……」
「え?でも、さっきぼくは貰ったよ?」
「はい。あれは、アイドルの寿嶺二さんに贈るチョコレートです。でも、恋人である先輩に贈るチョコレートは、あとでお渡ししようと思っていて……」
「……」
嶺二が黙り込んでしまったので、春歌は俯いていた顔を上げた。
それと同時に、ぎゅっと手が掴まれた。
「今、すっごく嬉しいんだけど……。君は、おにいさんをこれ以上メロメロにする気なの?」
「あの……」
それ以上は言葉もなく、ただひたすらマンションへの道を二人で歩いていった。
◆
嶺二をリビングに通して、春歌は冷蔵庫にしまってあるチョコレートを取りにキッチンへ行った。
春歌にとって、生まれて初めて作る本命チョコ。
嶺二のパートナーになってから、徐々に増え始めた仕事の合間をぬって作ったものだ。
凝ったものは作れなかったけど、甘すぎず苦すぎず程良い味になるように、ミルクチョコとビターチョコの配分を工夫して作った、生チョコレートだ。
大人な嶺二に贈るものなので、ブランデーも隠し味で入れてある。
「先輩、受け取ってください。わたしの本命チョコです……」
「ありがとう。れいちゃん、感激!開けてもいいよね?」
「はい。不格好かもしれませんが、一生懸命作りました」
「それは、嬉しいな。君の心がこもっているとなれば、なおさら!」
嶺二は、手際よくリボンを解くと箱を開けた。
その様子を見ながら、春歌は隣に腰掛ける。
「いい香りがするチョコレートだね。さっそくいただきまーす」
チョコレートをひとつ指で摘むと、嶺二は口へと運んだ。
春歌は、固唾をのんで、彼の反応を伺う。
ゆっくりと味わうように口の中で溶かしつつ、嶺二はチョコレート一粒を時間をかけて食べ終えた。
「いかがでしたか?」
「ん。おいしいよ」
にっこりと微笑みながら、嶺二は自分の指先に付いたココアパウダーをぺろりと舐める。
それは彼にとってとても些細な行動なのだろうけど、春歌はドキリとした。
嶺二を、すごくセクシーだと感じた。
いつもの彼のキャラクターから考えたら、この言葉は適当ではないのかもしれない。
けれど、こうして二人で過ごす時間が増えてから、春歌は彼の持つ色気をすごく感じるようになった。
彼は、大人の男性だ。
目線、仕草、雰囲気……。
とにかくセクシーなのだ。
二人きりになると、それを見せつけてくる。
わざとなのか、無意識なのかは分からない。
けれども、そのたびに春歌はドキドキして、どう反応したらいいのか分からなくなる。
「君も食べてみる?」
「え?それは、先輩に差し上げたもので……。わたしは、味見で食べましたし……」
「そんなこと気にしないの。ほら、食べて。あーーん」
「へっ……えっ!?」
有無も言わさず口元に持ってこられて、春歌は条件反射のように口を開けた。
嶺二の指まで食べてしまわないように気をつけながら、春歌はチョコレートを口に含んだ。
「すぐに噛んで飲み込んじゃダメだよ。舌の上でゆっくり溶かして、味わって……」
嶺二の言葉に、春歌は無言で頷いた。
見つめてくる彼の視線が、とても熱い。
チョコレートが口内でゆっくりと溶けていく感触とともに、自分の思考も溶けていくのを感じる。
作りながら味見をしたはずのチョコレートなのに、そのときとは明らかに違う感覚。
ただ、嶺二に見つめられて食べているだけで……。
体の奥から、彼の視線の熱が移ったように熱くなってくる。
「おいしかった?」
嶺二の問いに、言葉もなく頷く。
すると、春歌の口元に、嶺二は自分の指を近づけてきた。
「ココアパウダーも、ちゃんと食べてね」
そう言いながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
いつもの春歌だったら、恥ずかしがって頬を染めつつ顔を背けてしまっただろう。
でも、チョコレートと一緒に溶けてしまった思考は、春歌を大胆にした。
熱に浮かされるままに、春歌は嶺二の指を口に含んだ。
予期せぬ春歌の行動に、嶺二の瞳は驚きで見開かれる。
そんな嶺二の顔をじっと見つめながら、春歌は彼の男らしいちょっと節くれ立った指先に舌を這わせた。
ほろ苦いココアパウダーの味が、口に広がる。
「春歌……」
滅多に呼ばない名前を、嶺二がぽつりと呟いた。
春歌の大好きな、その声で。
仕事の時は、後輩ちゃんか七海ちゃん。
二人きりの時は、嶺二の考えたあだ名だったりして、名前で呼ばれたことは数えるほどしかない。
でも、こうして嶺二に名前を呼んでもらえる瞬間が、春歌はとても好きだった。
今が特別な時間であることを、改めて実感できるから。
うっとりと目を閉じると、嶺二の指が口からゆっくりと抜き出された。
「先輩?」
ぼんやりとした思考のまま、目を開けて嶺二の顔を見つめる。
嶺二はぐっと握りこぶしを作ると、大きくため息をついた。
「君ってさ、基本的にウブですっごくシャイな女の子だよね……。そこがまたかわいいんだけど……。でも、時々驚くほど大胆になる。ひょっとして、ぼくちん、試されているのかな?」
「え?」
「ようするに、ぼくの理性が限界ってこと」
嶺二の手が、春歌の頬に触れる。
ひとつ瞬きをする間に抱き寄せられ、春歌の唇は奪われた。
それは、奪われるという言葉にふさわしい、荒々しいキスだった。
いつもは、慣れない春歌に合わせて、徐々に深く激しくなっていくキスをしてくる嶺二。
それなのに……。
「はっ……せんぱ……くるし……」
キスの合間にやっと訴えると、嶺二は、一旦唇を離してくれた。
「ダーメ。まだ終わらないよ」
すぐに、また唇が重なる。
春歌の舌の表面を、嶺二の舌がゆるりとなぞった後で、じっくりと味わうように執拗に絡んでくる。
嶺二の方が少し体温が高いのか、暖かくて柔らかい舌の感触を春歌はまざまざと感じる。
嶺二によって教えられた、大人のキス。
まだ、慣れないけれど、すごく気持ちのいいキス。
そのキスの感触は、チョコレートを舌でゆっくりと溶かして味わっていたときと似ている。
それに気づくと、春歌は自分がチョコレートになってしまったような気持ちになってきた。
このまま嶺二のキスで、自分の体はトロトロに溶けて、食べられてしまうんじゃないか。
思考はもうとっくに溶けてしまって、嶺二から与えられるキスに身を委ねるしかない状態。
体の奥だけでなく、全身がとにかく熱くて、じわりと涙が滲んだ。
チョコレートよりも、嶺二のキスの方がすごい。
「ごめん。苦しかった?」
唇を離すと、嶺二は春歌の目頭に滲んでいた涙をそっと拭う。
春歌は、ぼうっとしながらも、違うということを伝えたくて首を振った。
「だいじょうぶです……」
ちょっと舌足らずになってしまった返事を聞くと、嶺二はすっと目を細めた。
そして、今度は春歌をぎゅっと抱き締めた。
「チョコレートは媚薬って言うけど、その通りだね」
「え?」
「バラエティの収録で知った話だけど、チョコレートの溶ける感触は、キスをするときの4倍、脳を興奮させるんだって」
「そう……なんですか」
整わない呼吸で、春歌がそう呟くと、嶺二は髪をやさしく撫でてきた。
「チョコレートのせいで、興奮しているのかな?もっと君にキスをしたい。君は苦しそうなのに……。ぼくの方が大人なんだから、そこんところを加減して、抑えないといけないのにね」
「寿先輩……」
「でも、この抑えきれない気持ちは、それだけじゃない気もする。これはチョコレートの効果なのかな?それとも、君とのキスの効果?君はどう思う?」
「それは……」
自分に向けられた問いかけに戸惑っていると、嶺二は抱き締める腕を緩め、春歌の顔をのぞき込んできた。
「チョコレートを溶かすのと、キスするのと、君はどっちが興奮する?気持ちいい?」
すごく恥ずかしいことを聞かれているのは分かる。
そんないじわるな問いを、うまくかわす方法なんて春歌は知らない。
こんなときほど、経験値の差を思い知らされる。
「うぅ……。分かりません」
やっとの思いでそう答えると、嶺二は微笑みを浮かべた。
「じゃあ、今度は比べてみよっか。はい、あーーん」
「え……あの……」
春歌の口に、嶺二の手によりふたつ目のチョコレートが入れられた。
「ゆっくり溶かして食べるんだよ。食べ終わったら、教えて」
甘いけど、隠し味のブランデーのほろ苦い味も隠れているチョコレート。
春歌は、それをまた味わう。
心臓がうるさいくらいに鼓動を刻み、ますます訳が分からなくなってくる。
酔っぱらってしまったのではないかと思うほど、クラクラする。
やっとの思いで食べ終えると、それを伝えるかわりに首を縦に振った。
「はい。次は、キス。じっくり味わってね」
抱き締められると同時に、唇が重なる。
味わってと言ったのに、逆に嶺二が春歌を味わっているようなキスが施される。
先ほどよりも少し余裕があるのか、嶺二の巧みな舌が、口腔内の上顎をくすぐってきて、春歌の体が快感でビクビクと震えた。
そんな春歌をなだめるように、嶺二の手のひらが背中を撫でてきたけれど、それすら刺激になってしまう。
嶺二のシャツの胸元を、ぐっと掴む。
「どっちか、分かった?」
「……」
「まだ分からない?じゃあ、もう一回」
「……キスです!」
これ以上されたら、体が持たない。
春歌は、息を切らせながらも、よく回らない頭で嶺二の問いに答えた。
答えなんて、比べる前から決まっている。
春歌はいつだって、嶺二のキスでとろけそうになってしまうのだから。
「ぼくの勝ちかー」
「はい」
「うーーん。これは、男としては喜ぶところだよね」
そう言いつつも、嶺二はなにやら思案しているようだ。
またいけないことを思いつく前に、彼にチョコレートを食べてもらおうと考え、春歌は震える指で、箱からチョコレートをひとつ取り出した。
「これは、寿先輩のために作ったものです。ですから、きちんと先輩が食べてください。その……あーん」
「分かったよん」
嶺二は、春歌が差し出すチョコレートに唇を寄せると、すっと目を細めた。
やけに素直に受け取ってくれることに疑問を覚えたものの、どうしたらいいのかは春歌には分からない。
「ちゃんと、ぼくがいただくことにするよ。でも……」
そこで言葉を区切ると、嶺二はチョコレートを口に含んだ。
そして、春歌をぎゅっと抱き寄せると、また唇を重ねてきた。
素早い行動に、春歌が抗議をする暇もなく、唇の隙間から嶺二の舌とチョコレートが入り込んでくる。
そのまま、二人の舌とゆっくりと溶けていくチョコレートが絡み合う。
比べさせて選ばせて、それで気が済んだのかと思いきや、今度は同時にだなんて……。
今度こそ、チョコレートと一緒に、自分は溶けてしまうんじゃないかと、春歌は思った。
「チョコレートは、キスの4倍脳を興奮させて気持ち良くする。でも、君にはぼくのキスの方が効果がある。それなら、チョコレートとキスを一緒にした方がオトクじゃない?」
チョコレートが溶けきったところで、唇を離すと嶺二はそう言った。
「それって、わたしにとってのオトクで……。先輩は……」
「ぼくにとってもオトクに決まってるでしょ。チョコレートと君とのキスを、同時に味わえちゃうんだから。それに……」
嶺二は、春歌の唇に指を這わせる。
「すごく興奮する。チョコレートのように、甘くとろけそうな君の顔を見られて……」
そして、今度は軽くキス。
春歌は無意識のうちに、嶺二に手を伸ばし、先ほど彼がしてくれたように、その唇に指で触れた。
嶺二は、そんな春歌の指に軽く歯を立てる。
「マジで、君を食べちゃいたい」
その言葉を聞くと、春歌はゆっくりと目を閉じた。
チョコレートのように甘い、恋人たちの夜はまだ続く。
二人の初めてのバレンタインデー。
溺愛テンプテーションで「甘く残るチョコのようなキスでとろけて」って歌っているので、嶺ちゃんのキスはすごいんじゃないかとずっと妄想していました。
そんなわけで、チョコとキスを絡めたお話です。