Sweet Honey

「ハッピーバースデー、忍人さん!」

今日はいつもより早めに仕事を終え、いつもより早めに恋人である千尋の部屋へとやって来た。
すると、扉を開けると同時に大きな拍手が響き渡り、忍人には理解のできない言葉での歓迎を恋人から受けた。

――明日は、いつもより早く来てください。絶対ですよ!

昨日、そう釘をさされていたので、何かあるのだろうと思いつつ来てみれば、これだ。
ちょっとやそっとのことでは動じない忍人ではあるが、予想の範疇を超える出来事に言葉を失った。
室の真ん中にある食卓の上には、武人が戦のときに用いる盾を思わせるような、茶色い円形のものが置かれている。
しかもそれには、たくさんのろうそくが刺されているというおまけつきだ。
あまりにたくさん刺してあるから、まるでいが栗のようだ。
絶句する忍人に、満面の笑みを浮かべながら千尋が言った。

「今日は、忍人さんの誕生日ですよね!ケーキを焼いたんです。生クリームとかが、豊葦原では手に入らないから、簡単なホットケーキしかできませんでしたが……」
「……」
「ろうそくも22本用意したんですよ。でも、ケーキに刺したら、少し見た目が悪くなっちゃって……」
「……」
「あ!でも、味は大丈夫ですよ。カリガネに相談したおかげで、おいしく作れました。それに、特別に取り寄せた蜂蜜もおまけで用意しました」

忍人が黙っている間に、まくしたてるように千尋が茶色い物体について語った。
茶色い物体は、ホットケーキという名前で、千尋が忍人のために用意した甘味であることが分かった。
動機はよく分からないが、忍人の祝いを行いたい様子だ。

「君はいったい……何をやっているんだ?」

その言葉で、忍人の反応がいまいちである理由が分かった千尋は、目を瞬かせた。

「何って、忍人さんの誕生日祝いですよ。今日、12月21日は、忍人さんの生まれた日ですよね?」
「いや……その通りなんだが……。しかし……なぜ、俺の誕生日を祝う必要があるんだ?」
「そうか!豊葦原では、そういう風習がありませんでしたよね。うっかり忘れていました」

合点がいったとばかりに手をぱちんと鳴らすと、千尋は得意げな顔で説明を始めた。

「豊葦原には無い風習なんですが、私が5年間過ごしていた世界では、誕生日を祝う風習があったんです。この世に生まれて、しかも元気に歳を重ねることができるって、とてもおめでたいことなんです」
「……」
「で!誕生日の日は、特別に甘いケーキを食べたりして、お祝いをするんです」
「……そうか。分かった」
「うふふ。分かってもらえましたか?とりあえず座ってください」

説明を終えると、千尋は嬉々として椅子を引き、忍人を座らせた。
落ち着かない様子で座る忍人を前に、千尋は姿勢を正した。

「じゃあ、ろうそくを消してください」
「ろうそくを……?」
「はい。私がハッピーバースデー……お誕生日おめでとうの歌をうたいますから、それが終わったと同時に、消すんです」
「こんなにたくさんのろうそくを、か?」
「はい。あ!ちなみに、フーって吹き消すんですよ」
「なっ……!?」
「あ……。そんなかっこ悪いことできないと言うのは、無しですよ。みんなやっていることなんですから」

忍人は、思わずこめかみを押さえた。
そして、聞くまでもなく予想がつくのだが、敢えて聞いてみる。

「みんなとは、いったい誰なんだ?」
「那岐や風早です。嫌がらずに、毎年やっていましたよ?」
「それは、みんなとは言わない。ごく一部と言う」
「えー。でも、ケーキのろうそくを消すってのは、誕生日の常識ですから!」

譲る様子のない千尋に、仕方がないなと呟きながら溜息をつく。
それを、承諾のしるしと受け取ったのか、千尋はにっこりと笑った。

「それじゃあ、歌いますね。Happy Birthday,to you......」

千尋は不思議な言葉を使い、歌をうたい始めた。
忍人の耳にしたことのない歌ではあるが、彼女が言うには、その歌詞はお祝いを意味する言葉らしい。
どことなくやさしいメロディが心地よい。

「Happy Birthday,to you!はい、消してください」
「……」

忍人は、無言で22本のろうそくを吹き消した。
なんだかんだ言いつつ一息で消してしまうあたり、自分も大概に甘いと思う。

「一息で消せちゃうだなんてすごいですね、忍人さん。じゃあ、食べましょう!」

そう言いながら、ケーキに刺されたろうそくを千尋は、手際よく抜き取っていく。
それを眺めながら、忍人は言った。

「千尋。悪いんだが、俺はどうも甘味が苦手で……」
「……そう言うだろうと思って、甘さ控えめですよ?」
「君が食べてくれ」
「えー……」

千尋は、不満げな声を上げた。

「せっかく作ったのに……」

ぶつぶつ言いながらも、千尋は自らホットケーキを切って、口に運んだ。
忍人との付き合いも長くなってきたので、ちょっとのことでは落ち込まなくなったのはよいことだ。
以前の千尋だったら、ケーキがいらないと言われたらぐるぐる考えて落ち込んで、塞ぎこんでしまっていたかもしれない。
忍人は、厳しく冷たいと感じられる物言いをするが、それだけの人ではないことを、付き合いの中で知ったからだ。
しかし、忍人の厳しい言葉にも動じない強かさを、千尋は同時に身につけてしまった。

「後で、やっぱり欲しいって言ってもあげませんからね」
「おいしいのか?」
「当たり前じゃないですか。蜂蜜をかけて染み込んだところなんて、格別ですよ」
「……」

頬張りながら、唇の端に付いた蜂蜜をぺろりと舐める仕草が、彼女らしくて愛らしい。
いや……愛らしさの中に、どことなく艶めいたものが……。

「うん。おいしい!でも、忍人さんにはあげませんから」

そんな忍人の心中を知らず、ささやかに反抗する恋人。
少々憎らしくも、やはり愛らしい。
忍人は、思わず笑みがこぼれた。

「何がおかしいんですか?ひょっとして、私の顔にケーキが付いていますか?」

千尋が慌てて口元に手をやろうししたが、それを遮るように忍人は彼女の手を掴んだ。

「違う。俺も、貰おうかと思ったんだ」
「……」

忍人の言葉に、千尋は不満げに頬をふくらませた。
忍人を上目遣いでにらみつける。

「後でやっぱり欲しいって言ってもあげないって、さっき言いましたよね」
「くれないのか?」
「……」

掴んだ手をそのままに、千尋の瞳をじっと覗き込む。
蒼い瞳が、恥らうように揺れた。

「あげます……。でも、今回だけですよ?」

忍人と同様に、千尋も大概甘い。

「じゃあ、忍人さんの分を……」

千尋は忍人の手を解くと、残りのホットケーキにとろりと蜂蜜をかけた。
甘さ控えめとは言っていたものの、とても甘そうだ。

「はい。どうぞ」

千尋は笑顔で、器ごと忍人の前にケーキを置いた。
忍人は、それを口にした。
ホットケーキとは初めて口にするのだが、ふかふかとした柔らかな食べ物だ。
なるほど、確かに甘さは控えめに作られている。
その分、蜂蜜の甘さがより引き立てられていた。

「どうですか?」

目を輝かせて、千尋は忍人の反応をうかがっている。

甘味は苦手だ。
しかし、それでもおいしく感じられるのは、目の前にいる恋人が作ったものだからであろうか。
そうでなければ、きっと口にしようとは思わなかっただろう。

だが、忍人が無条件で好む甘味は、この世に一つしかない。

普段の忍人ならば、こんなことは考えなかっただろうし、考えたとしても実行しようなどとは思わなかったかもしれない。
じっと忍人の顔を見つめてくる千尋がかわいらしいのがいけないのだと心の内で言い訳をしつつ、忍人は考えたことを実行に移すことにした。

「悪くないな」
「それって、おいしいってことですか?」
「ああ」
「よかった!」
「おいしいが……」

何か物言いをつけそうな忍人の言葉に、千尋は眉根を寄せて首を傾げた。

「何か問題がありましたか?」
「いや、問題はない。ホットケーキはうまいが、願わくば君から食べさせて欲しい」
「何だそんなことですか。いいですよ」

千尋は忍人の願いを受け入れ、嬉々としてホットケーキを箸で掴むと忍人の口元へと運ぼうとする。
何も分かっていない、愛しい恋人。
忍人は、目を細めた。

「忍人さんが、こんなことをお願いするなんて珍しいですね。はい!どうぞ」
「……」
「どうしたんですか?」
「千尋、違うんだ」
「え……?」
「俺は、願わくば君”から”食べさせて欲しいと言った」
「はい。だからこうして……」
「それは、こう言うことだ」

そう短く言うと、忍人は立ち上がり千尋へと歩み寄る。
そして、戸惑いの表情を浮かべる彼女の顎をとらえると唇を重ねた。

「んっ……」

緊張した様子で肩を竦め、重なった唇がふるりと震える。
もう幾度となく重ねている行為なのに、未だに初々しさの消えない千尋がいとおしく感じられる。
やわらかな彼女の唇を舌先でそっと撫でると、遠慮がちにそれを受け入れようと開かれる。
忍人は、そこに遠慮なく舌を差し入れた。
絡まってくる舌を吸ったり、上顎を探ったりと、彼女の中を味わいつくすかのように舌を動かす。
甘い……。
先ほど、ケーキとやらを食べたせいだけではない甘みが、彼女の中にはある。
その甘みは、忍人の冷静な判断力や、理性といったものを麻痺させてしまう。
苦しそうな吐息が口付けの合間に聞こえるけれど、加減をしてやることができない。
口付けから解放してやる頃には、千尋の身体の力はすっかり抜けてしまっており、忍人の身体にくたりと凭れ掛かってきた。

「甘いな」

千尋の髪を撫でながらそう言うと、千尋は忍人の服の胸元をくっと掴んだ。

「私から食べさせてって、そういう意味だったんですか?」
「何か問題でも?」
「いえ……。問題はないですけど……」
「まだ、終わっていないんだが」
「え……?」

髪を撫でる手を、千尋の首筋へと移動させくすぐるように撫でる。
そして、耳元へと唇を寄せると囁きかけた。

「問題があるか?」
「ないです……」

恥ずかしそうに言う千尋の返事を聞くと同時に、紅くなった耳朶へと口付けを落とした。
指で撫でていた首筋を、今度は唇で辿る。
そうしながらも、忍人は千尋の着物の帯へと手をかけた。

「あの……忍人さん……。ここで……ですか?」

困惑した様子で、千尋が尋ねてきた。
無理もない。
彼女はまだ、食卓の椅子に腰掛けたままなのだから。
愛し合うときは、いつも寝台に移動してからなのに。

「君から食べさせて欲しいと言ったからな」
「それは、そうですけど……。でも、ここだと……いろいろと不都合がありそうな……」
「食べるのに、不都合なことはない」

忍人はそう言い切ると、千尋の帯を一息に解いた。
何枚か重ねている着物の袷に手をかけて開くと、白い肌が露わになる。
恥ずかしそうに肌を隠そうとする手を遮ると、忍人は千尋の姿をじっと見つめた。
腰の辺りに着物が引っかかり、中途半端に脱いだ形になっている。
それが、ひどく扇情的だ。

「あの……明かりを消してもらえませんか?」
「それは困る。食事をするのに、暗闇ではいろいろと不都合だ」
「食事じゃないですし!」
「いや。食事だ」

千尋のささやかな抗議を却下すると、忍人は食卓の上に置かれた蜂蜜を手にした。
そして、露わにされた白い肌に、とろりとかけた。

「忍人さん!?」

忍人がそんなことをするとは思ってもみなかったのか、千尋は目を見開いた。

「君は、ケーキとは違うが……。俺には、こちらの方が好ましく見える」

そう呟くと、忍人は千尋の肌に唇を寄せた。
肌にかかった蜂蜜を舐め取っていくと、千尋は身を捩る。

「忍人さん……くすぐったいです」

まだ余裕のありそうなその言葉に、忍人の嗜虐心が煽られた。
ひんやりとしたはちみつをかけられたせいだろうか、硬く尖っている乳首を口に含んで転がしてやる。

「あ……だめです」

空いている方の乳房を手で揉みしだくと、柔らかな感触を伝えるとともに形を変える。

「ケーキより、君の方が柔らかい」

腰に引っかかったままの着物の裾から手を差し入れ、その奥を探る。
目的の場所に触れると、忍人は手を止めた。

「おかしなことだ。こちらには蜂蜜をかけていないはずなのに、ひどく濡れている……」
「っ……!」

蒼目を覗き込むと、恥ずかしさに耐え切れないのか千尋は顔を背けた。
空いている方の手で顎をとらえ、正面を向かせると唇を重ねる。

「ふっ……ん……」

千尋の口内を舌で探ると、くぐもった声が上がる。
互いの唾液を交し合い、ぴちゃぴちゃと水音が室内に響いた。
それと同時に、口付けとは違う水音が千尋の下肢からあがる。

「千尋、ますます濡れてきている」

告げなくとも分かる状況を、敢えて彼女に告げてみる。
意地悪をしないでと訴えるように見つめてくる潤んだ瞳が、忍人をどこまでも煽っていく。
千尋の秘められた場所を、指で弄った。
熱く溢れてくるその場所にゆっくりと指を差し入れると、くちゅりとさらなる水音が上がり、忍人の指をきゅっと締め付けてくる。

「君は、俺を食べるのか?」
「やっ……あ……そんなこと……」
「そんなことないと?しかし、君のここは、今にも俺の指を食いちぎりそうだ」
「あ……あぁ!」

指先をくっと曲げて、千尋の中の敏感な部分を擦ってやると、首を振りながら嬌声をあげる。
声を上げるたびに千尋の中は、忍人の指を締め付ける。
そして、彼女の中から溢れてきた蜜は、すでに忍人の手首まで濡らしていた。

「あ……」

つぷりという音を立てて忍人が指を抜き去ると、千尋は微かに聞こえるくらいの吐息をついた。
少し残念そうな色を帯びている。
濡れてしまった手を見せつけると、千尋は頬をさらに紅く染めた。

「君は、まだ食べ足りないのか?」
「忍人さん……」

言葉で答える代わりに、千尋はもじもじと足を擦った。
煽られてしまったのは、千尋も同じようだ。
その様子に、忍人は満足げな笑みを浮かべる。

「どうやら、我慢がきかなさそうだな。君には忍耐が足りない」
「……」

反論もできずに千尋は、恥ずかしそうに俯いた。
少々言い過ぎたかと思ったが、忍人はそのまま彼女の腰にまとわりついたままの着物を脱がせた。
生まれたままの姿になった千尋は固く足を閉じ、それと同時に目もぎゅっと閉じた。

「忍耐が足りないのは、俺も同じようだ」

苦笑しながら忍人はそう呟くと、千尋を立ち上がらせた。

「忍人さん?」
「俺に背中を向け、机に手をつくんだ」
「……何をするんですか?」
「いいから。早くするんだ」

切羽詰ったようにそう促され、千尋は言われたとおりの体勢になる。
忍人は、そんな彼女の腰を掴むと、ぐっと引き寄せた。

「や……忍人さん、こんなの恥ずかしい……」

忍人の目の前に、紅く充血した花弁が晒される。
そこは、これ以上はといえるくらい濡れているにも関わらず、さらに蜜が溢れ出した。

「まただ……。君のここには、蜂蜜をかけていないというのに……」
「あっ……」

指先で撫でてやると、滑らかで熱い蜜が絡みつく。
忍人は食卓の上に乗っている蜂蜜を手にすると、そこにかけた。

「やだ、忍人さん。そんなとこに!」

千尋は慌てて振り返ろうとしたが、すでに遅かった。
忍人は跪くと、千尋の下肢に唇を寄せる。

「あ……あぁっ……」
「君のここも……甘いな……」

彼女の蜜と蜂蜜が混じりあい、濃厚な味がした。
忍人は、それを夢中になって啜る。
だが、いくら啜っても、蜜は無くならない。
蜜が溢れてくる根源に、舌を差し入れさらに啜ってやった。

「忍人さ……だ……め……も、いっちゃう……」

いやいやするように、千尋が首を振った。
肩で切り揃えられた金色の髪が、さらさらと音を立てる。
忍人は、追い詰めるように蜜を啜りながら、ぷっくりと膨らんだ花芽を指先で弄った。

「あぁっ!!」

一際高い声を上げ、千尋は達した。
そこでようやく唇を離すと、彼女の花弁はまだ誘うようにひくひくと動いていた。

「達してしまったのか?」

もう言葉を発することができないのか、千尋ははあはあと肩を揺らしながら息をしている。
机についた手が、ふるふると震えている。

「君に無理を強いるのは、本意ではないのだが……。今しばらく付き合って欲しい。先ほど言ったように、俺には忍耐が足りない」

そう言いながら忍人は、ようやく自らの着衣の帯を解くと脱ぎ捨てた。
そして、硬くそそり立ちすでに準備の整ったものを取り出し、千尋に宛がった。

「君が欲しくてたまらない」

千尋の腰を掴むと、そのまま一息に彼女の中へ己を突き立てた。
溢れんばかりの蜜が潤滑剤となって、忍人のものは難なく入っていく。

「あ……忍人さん……こんなの……」

このような……獣を思わせるような姿勢で挿入されることは初めてで、千尋は戸惑った声を上げる。
しかし、もう止めることはできない。
忍人は、夢中になって腰を打ちつけた。
抜き差しを繰り返すたびに、二人の繋がった部分からずぷずぷと卑猥な音が上がる。

「あっ……はぁ……や……いつもと違っ……」
「はっ……。やはり、君は俺を食べるんだな。こんなに締め付けて……」

いつもとは違う挿入の仕方で新たな快感を呼び起こされたのか、千尋は艶を含んだ声を上げ、中に入った忍人をきつく締め付ける。
痺れるような快楽に忍人も襲われて、息を乱した。
そして、快楽の頂点を目指し、ひたすら腰を動かした。

「だ、め……またいっちゃ……」
「千尋……今度は一緒に……」

忍人が、一際奥へと突き上げると同時に、二人はともに高みへとたどり着いた。



千尋が気を失うように眠りについたところで、忍人は寝台へと彼女を運んだ。
そっと下ろしたつもりだが、睫毛を震わせながら、千尋はぼんやりと目を開いた。
忍人の顔に焦点があうと、恥ずかしそうに掛け布にくるまり、ぷいっと横を向いてしまった。

「千尋……」

寝台に腰掛け、さらさらとした金糸を撫でる。
しかし千尋は掛け布に顔をさらにうずめて、忍人の方を振り返ろうとはしない。
やってしまったことを、後悔はしていない。
だが、本格的に彼女の機嫌を損ねてしまったことを察し、忍人はどうしたものかと考えた。

「せっかくのお誕生日祝いだったのに」
「……」
「忍人さん……あんな……あんな恥ずかしいことを……」

そう呟く千尋の耳は、紅く染まっている。
機嫌を損ねているのではなく、ただ恥らっているだけであることを感じて、忍人は微笑みながら千尋の隣に横たわった。

「君が俺のために準備してくれたこと、嬉しく思っている」
「……」

そう囁きながら、横たわったままの千尋の身体を後ろから抱き締めた。
千尋の肩が、ぴくりと動く。

「ありがとう、千尋」
「忍人さん……」

千尋が忍人の腕の中でもぞもぞと動き、ようやく振り返った。
立っていると身長差があるのだが、横たわっていることにより、目の前に彼女の顔がある。

「忍人さんが喜んでくれたのなら、来年もお祝いをします」

彼女の口から出た申し出は、忍人に幸福をもたらすもので……。

「……いいですか?」

すぐに答えられずにいると、千尋は横たわったまま首をかしげた。

「ああ」
「じゃあ、再来年もお祝いしていいですか?」
「そうだな」
「そのまた次の年もいいですか?」
「当たり前だ。君に祝ってもらえる以上の幸せなどない」
「うふふ……これからも、張り切って準備します」

千尋はくすくすと笑いながら、忍人の胸に寄り添ってきた。

「あ……でも、来年はケーキの代わりに私を食べるってのは、なしですよ?」
「そうだな」
「本当に分かってますか?」

忍人の胸が上下していることから、笑っていることを感じた千尋は忍人の胸に頬を擦り付け、ぎゅっと抱きついてきた。

「ああ、分かっている。誕生日でなくとも、君をいただくことはいつでもできるからな」
「……そういう意味じゃなくて……。あ!でも、忍人さんとするのが嫌だって訳じゃなくてあの……。恥ずかしいのは駄目ですけど……あの……」
「分かった……」

言葉を重ねるほどに深みに嵌っていってしまう千尋を、忍人は微笑ましく、そして愛しく感じた。
抱きついてくる千尋の身体に腕を回すと、華奢な身体を抱き締めた。

「……ハッピーバースデー……ううん、お誕生日おめでとうございます、忍人さん」

そう囁いた彼女の額に、口付けを贈ることで感謝の気持ちを伝えた。
ああ、やはり彼女は甘い。
そう感じながら。

将軍、お誕生日おめでとう!
いろいろと軽率ですみません……;もう無理かと思ったけど、間に合ってよかったです。忍人のストイックさが好きなのに、それはどこへ……。以前、将望でやった南国でバレンタインよりも苦しかったです。歴史考証云々といった細かいことに突っ込みは入れないでくださいね;
と……とにかく、おめでとう!